センター長あいさつ
長寿ファミリー企業研究センターは、龍谷大学社会科学研究所の付属研究センターとして2019年1月に設立されました。日本では、創業者一族が経営を担う、あるいは、株式を保有する会社を、「同族企業」、「オーナー会社」などと呼び、否定的なニュアンスで捉える傾向にありますが、欧米諸国は早くから「ファミリー企業」(family business)の経営を客観的に分析し、議論してきました。
ファミリー企業には確かに、ファミリーによる骨肉の争い、企業の私物化、縁故主義といった課題やリスクがつきまといますが、目先の業績にとらわれず、持続的な成長、中長期的な存続を追求する企業が少なくありません。そうした企業は、顧客や取引先、従業員との長期的な信頼関係を重視する一方で、企業を取り巻く環境変化に適応し、時に、自らを大胆に変革することで存続と拡大を図ってきました。欧米諸国では、平時における高い利益率や資本効率、経済危機や災害といった非常時の頑健性(robustness)、雇用や地域社会への貢献といった側面が高く評価されています。
非ファミリー企業は経営(business)に焦点を当てますが、ファミリー企業では、経営と所有(ownership)と家族(family)の3つのバランスが不可欠です。また、経済社会の価値体系やシステムが大きく変容する中で、長寿ファミリー企業も、事業承継やガバナンス、イノベーションといったさまざまな面で新たな課題に直面しています。他方、業歴の浅い中国などのファミリー企業が日本の長寿ファミリー企業に学ぼうとする動きも広がっています。
日本では企業数の約95%、雇用の70%以上をファミリー企業が占めるといわれています。中小企業だけでなく、鳥井・佐治家のサントリー、竹中家の竹中工務店、安藤家の日清食品といった大企業でもファミリー企業は珍しくありません。また、民間の信用調査機関である帝国データバンクによると、業歴100年以上の長寿企業が全国に3万3000社以上存在し、全企業に占める割合(出現率)は2.27%です(2019年時点)。企業数で見ても出現率で見ても、日本は世界1であり、出現率に限れば、京都府(4.73%)は日本1です。日本は長寿ファミリー企業大国であり、その中でも京都は傑出した地域といえます。
われわれはこの京都に研究拠点を置く強みを生かし、長寿ファミリー企業の存続や拡大のメカニズムを研究しています。特に強い関心をもっているのが、ファミリー企業が何世紀にもわたって埋め込まれてきた地域社会(コミュニティ)との関係性です。そのため、われわれは、異なる歴史や文化、価値観を有する様々な地域や国の人々と積極的に交流していきたいと考えています。また、われわれは、京都府が主宰する「老舗の会」(主たるメンバーは京都府による業歴100年以上の「京の老舗表彰」受彰企業)などの協力を得ながら研究を進めてきました。本研究センターが実務家と研究者の自由闊達に議論できる創造的な場として発展していくことも望んでいます。長寿ファミリー企業に関心のある多様な人々のハブとして、本研究センターが利用されるようになることを切に願っています。